マックス・ベックマンは、1884年にドイツ・ライプツィヒに生まれた画家です。20世紀を代表するドイツの芸術家のひとりとして知られ、しばしば表現主義の画家に分類されることがありますが、実際は表現主義という運動と言葉の両方を否定し、独自の象徴主義とスタイルを持った孤高の先駆者でした。幼い頃から芸術家になることを運命付けられていたベックマンは、ワイマールの美術学校で骨董品の彫刻や実物の模型から絵を描くなど、伝統的でアカデミックな教育を受けました。印象派の影響を受けて描いていたその才能はすぐに認められ、ベルリンのセセッション派として作品が展示されるようになりましたが、程なく第一次世界大戦が勃発し衛生兵として従軍します。戦場で目の当たりにした惨状は世界観を一変させるとともに人間への信頼を失わせ、その後の作品に大いに影響を及ぼします。歪んだアングルやシニカルな自画像、人間のグロテスクな側面を描いた作品が多く見られるのは、その経験のトラウマによるところがあるようです。学術的に正しい描写から図と空間両方の歪みへと劇的に変化した作風は、自分自身とベックマンの人間性に対する変化したヴィジョンを反映しています。
生涯にわたり描かれた多くの自画像は、レンブラントやピカソに匹敵するほどの数と迫力で知られています。ベックマンは哲学や文学にも精通しており、自己を求めて神秘主義や神智学についても考察するとともに、真の思想画家として被写体の中に隠された精神的な次元を見出すことにも努めました。2度の世界大戦を経験し、時代に翻弄されたベックマンですが、1950年に亡くなる頃にはすでに20世紀を代表する画家のひとりとしての地位を確立しており、その遺産は今も息づいています。