ポール・ケアホルムは現代デンマークデザインの中でも最も美しく印象的ないくつかの椅子を設計した家具デザイナーです。
『私はスチールを 木や革などと同じように芸術的メリットのある素材だと考えている』
このように語ったケアホルムは、抵抗力と柔軟性のあるサテン仕上げのフラットスチールを好み その表面に誘われる光の遊びを、木や籐、革などの素材と組合せ、積極的に家具製作に取り入れました。
ケアホルムは1929年デンマークのØster Vråに生まれ、15歳で家具職人に弟子入りし、その後コペンハーゲンのデンマーク美術工芸学校で学びました。そして卒業後 約一年間フリッツ・ハンセン社に勤め、数多くのチェアのプロトタイプをデザインしました。1950年代頃から注目を浴びるようになり、1958年にはパリで開催された「Formes Scandinaves(スカンジナビアの形)」展のために、今では有名な『PK 22チェア』と『PK24ロングチェア』を制作しました。『PK 22チェア』は古代ギリシャ時代の代表的な椅子であるKlismos(クリスモス)にインスパイアされたものです。その後 彼はデンマーク王立芸術アカデミーの助教授兼講師に任命されました。ケアホルムは1951年から1967年まで「ケアホルム・コレクション」をデザインしました。彼の最も洗練されたデザインのひとつである『PK80デイベッド』は、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のモネの『睡蓮』の展示室に備えられ 注目を集めました。
自身の個性よりも素材の特性を表現したいと願ったケアホルムの、控え目でありながら徹底した美意識に貫かれたエレガントな家具は、概して重心の低い設計で 畳文化を持つ私たち日本人にとっても馴染みやすく、親しまれています。
今日彼の作品はミッドセンチュリーの北欧デザインの中で最も革新的なものの一つとして、ニューヨーク近代美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などにコレクションされています。