ベルント・ベッヒャーはドイツのジーゲンに生まれ、ヒラはポツダムで生まれました。二人はデュオとして活動したコンセプチュアル・アーティストであり、40年間 ヨーロッパと北アメリカ周辺で姿を消しつつある工業建築を撮影し続けた写真家です。

もともと絵画や版画、タイポグラフィーを学んでいたベルントと、商業写真を学んでいたヒラは　1957年にデュッセルドルフ芸術アカデミーで出逢い1959年から協働作業を始め、二年間活動を共にした後二人は結婚しました。1976年から二人はデュッセルドルフ芸術アカデミーに初めて設けられた写真クラスの教授として教鞭を執り始めました。

給水塔や溶鉱炉、冷却塔や石炭庫、ガスタンク、サイロや工場などの工業時代特有の建築物や住宅を、常にモノクロで撮影するドキュメンタリースタイルで　彼らの写真には決して人は登場しません。そして作品は主に同タイプの構造の複数の写真をグループ化し、セットまたはタイポロジー的に表現され、グリッド構成で画像を展示するスタイルをとりました。彼らの作品は技術的には写真でありながら、『彫刻』とも呼ばれています。彼ら自身、被写体を『匿名の彫刻』と呼び1970年に出版された最初の作品集は『匿名的彫刻――工業的建築物のタイポロジー』と題されています。このタイトルには、マルセル・デュシャンのレディ・メイドに対する敬意も込められています。彼らの作品は、見落とされた美しさや形と機能の関係性を主題とし、産業が経済や環境に及ぼす影響を取り上げました。

1990年のヴェネチア・ビエンナーレでは、建築の彫刻的特性を示す能力により評価され　写真ではなく彫刻の賞を受賞しました。コンセプチュアルなアーティストとしても分類される彼らは、エド・ルシェやカール・アンドレ、ダグラス・ヒューブラーのようなミニマリストやコンセプチュアルなアーティストたちに影響を与え、また彼らの教えたデュッセルドルフ写真学校の学生であったアンドレアス・グルスキーやカンディダ・ヘーファー、トーマス・ルフやトーマス・シュトゥルートらはベッヒャー派と呼ばれ、現在のアート／写真界の第一線で活躍しています。このように多くのアーティストたちに薫陶を与え続けた彼らは、2002年にはエラスムス賞、2004年にはハッセルブラッド国際写真賞を受賞しました。