杉戸洋は現代日本を代表するアーティストのひとりです。軽やかなタッチで描かれる 柔らかで抽象的なかたちや半抽象的な人物や動物像、木々や家、船、点や線は 風通しの良い光に満ちています。
「森の中に歩いてゆくように、私は筆を動かし始め、すべてから離れ そして、言葉と意味が力を失い ただ消え去ってほしいとおもうのです」
このように語る彼の作品は、まるで砂浜に打ちよせられた貝殻の その真珠層のかがやきのように、ひかえめながら不思議な奥行をもって私たちを惹きつけます。
杉戸洋は愛知県名古屋市に生まれ、4歳から14歳までニューヨークで暮らし、その後日本に帰国しました。ニューヨーク近代美術館で見たピカソの『ゲルニカ』に感銘を受け、初めて買ってもらった画集はピカソだったといいます。アメリカ生活では英語を使っていたため、帰国当初一から日本語を勉強せねばならず 日本語で思ったことをうまく言い表せないもどかしさゆえ、知覚表現の手段として絵画を選ぶことになったようです。16歳の時に通っていた予備校で講師を務めていた奈良美智が見せてくれたサイ・トゥオンブリーの画集がきっかけとなり、本格的に絵を描こうと決心しました。愛知県立芸術大学卒業後には 一時期、有機農業を学ぶべく山奥に暮らし、その後1996年には 絵画制作のため再びアメリカに渡りました。帰国後、現在までも国内外で数多くの個展やグループ展を開催しています。奈良美智とは良き師として、良き友として親交が続いており二人展やコラボレーション制作なども行っています。
現在、東京藝術大学で美術学部絵画科油画准教授を務めています。2017年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しました。現在は名古屋と東京を拠点に活動しています。
彼の作品は、サンフランシスコ近代美術館、愛知県立美術館、東京都現代美術館、静岡のヴァンジ彫刻庭園美術館、ロンドンのサーチ・ギャラリー (Saatchi Gallery)、ミュンヘンのゲッツコレクション・現代美術ギャラリー(Sammlung Goetz)などでコレクション収蔵されています。