アグネス・マーティンはカナダ生まれ、幾何学的な抽象画で知られるアーティストです。
手描きによる繊細で美しい鉛筆の線、グリッド、淡い色の帯。彼女の作品は 静かで穏やかな抽象表現主義の精神から生まれました。その制作の形式的な精密さにもかかわらず、彼女は完璧を求めていたわけではありませんでした。むしろ道教やその他の東洋哲学の影響を受け、自分の芸術は自然の模様を反映したものだと感じていました。そして結果的に、『White Flower(白い花)』(1960)や『Night Sea (夜の海)』(1963)などのように、作品に自然現象にちなんだタイトルをつけるようになりました。
「自然というものは カーテンを開くようなものです、あなたはその中に入ってゆくのです
私は このようなカーテンのようなものを描きたいのです」
「私の絵は 溶け込んでゆくこと、かたちのないこと、を描いています」
「芸術は、私たちの捉えどころのない最も微妙な感覚の 具体的な表現なのです」
1912年カナダのマックリンに生まれたマーティンは 1940年代にニューヨークに移り、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで美術教育を学びました。その後彼女はロウアー・マンハッタンのコエンティーズ・スリップで、エルズワース・ケリーやロバート・インディアナ、レノア・トーニーらとスタジオの建物を共有しながら 自然現象に夢中になる一方で、妄想型統合失調症に悩まされていました。そして1967年彼女はニューヨークを離れ、アート界から姿を消し、18か月間に渡りアメリカとカナダを旅した後 ニューメキシコ州に定住しました。そこで彼女は50エーカーの土地を借り、自作のアドベ(有機素材の日干し煉瓦)の家でシンプルな暮らしをしながら制作を続けました。
マーティンは2004年ニューメキシコ州タオスにて92歳で亡くなりました。
2016年にはニューヨークのグッゲンハイム美術館で大規模な回顧展が開催されました。現在彼女の作品はサンフランシスコ近代美術館、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー、ロンドンのテート・ギャラリーなどのコレクションに収蔵されています。