アンドレ・ケルテスは1894年、ブタペスト出身の写真家です。18歳で写真を始め、1925年パリに移住後はフリーのカメラマンとして活動しながら、マン・レイやシャガールら前衛芸術家との交流を持ち、その肖像も手がけました。大型のカメラを使った計画的な写真ではなく小型のカメラにこだわり、誰よりも早くその優れた特徴を見出して、日常の思いがけない一瞬や、二度と再現されることのない瞬間の光と影を撮り続けました。1930年代にはディストーションという大きく体が歪んだ鏡像によるヌードのシリーズも残しています。

ケルテスが70年に及ぶ写真家生活で絶えず追求したことは「日常の暮らしの中で出会った何気ない出来事に光を当てて、そこに意味を与えること」でした。時代の流れから一人離れ眼と心の赴くままに小型のカメラで捉えた作品は、どれも完璧な構図と静かな叙情を備え、後に続く多くの写真家や芸術家たちに影響を与えています。