エテル・アドナンは1925年、フランス当時下にあったレバノン・ベイルートに生まれました。さまざまな言語が行き交う環境で育ったアドナンは、大学では芸術でなく哲学を学んでおり、最終的にハーバード大学の大学院終了し、その後はアメリカ・カリフォルニア州の大学で哲学を教えていました。しかし、アルジェリア独立戦争への共感と連帯感から、「フランス語で書く」ということの政治的意味合いに抵抗を覚え、創作の中心を詩からビジュアルアートへと移し、執筆と芸術の分野を流動的に行き来しながらの活動を始めました。
自身が詩作する際に使うノートサイズのキャンバスに、チューブから直接出した絵具をのせてパレットナイフで厚く塗り、インクや絵具で描くのは風景画。母国レバノンや第二の故郷であるカリフォルニアの海、山、空、そして季節を問わず変化する自然の情緒と偉大さを、ほぼ独学で習得した技術をもとに、抽象的な図形と直線を組み合わせ、自身が経験した時間や場所の感情を表す色彩で描き出します。アドナンの感覚と経験が詩的な印象で表現される作品のコンポジションは、パウル・クレーやニコラ・ド・スタールといった抽象画家に見られるブロック状の色の塊を彷彿とさせ、強烈なエネルギーを感じさせます。
90歳を超えてなお精力的に活動を続けるアドナンの近年の作品は、記憶に基づいて描かれており、風景の特徴が抽出されていて特に鮮明な体験の残像のようにも見えるものです。幼少期を過ごしたベイルートやカリフォルニアの風景の光や影などを感じさせるこれらの作品は、アドナンの考える「多次元的かつ同時的」な視覚を反映したものであり、多くのイメージがひとつの感覚的な体験に集約される場となっています。
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http://www.eteladnan.com/